ハチの友だち

1)イソノゴンゾーさん

「ハチって変な人が周りにいっぱいいるよね!」

「そうそう、変わった人から好かれるよね」

周りの人からよく言われる。そんな“ハチの友だち”を紹介していこうと思う。

ふた昔前、編集プロダクションに勤めていた頃のことだ。その会社は、野球で言えば“打って、走れて、守れる”、つまり“企画が立てられ、原稿が書け、写真が撮れる(もしくはイラストが描ける)”を当然とする人たちの集まりで、当然のことながらけっこうな仕事を手がけていた。しかも編集・制作だけでなく、麻雀大会や現地チームとの野球大会付き社員旅行、銭湯貸切の大忘年会、スキー旅行などなど、業務には関係のないイベントが恒例となっていた。

特に月イチで開催される麻雀大会は、クライアントや外部のフリーランスなど参加者は多岐にわたり、メンバーへの声かけ、参加者の取りまとめ、会場確保……主に担当していたのは経理の人だったと思うが、本来の仕事以外の雑事に追われることになる。そして、大会当日は、私を含む数名の居残り組で、夕方以降の通常業務をこなすのだ。“働き方”なんて概念は全くない、まさに昭和の編集プロダクションである。

そんな少数精鋭(ハチを除く)の会社に、今でいうインターン、大学3年だったか4年だったかの女子がバイト待遇で入ってきた。“編集”って言葉に憧れてのことだと思う。当然のことながら編集・制作の現場では足手まといにしかならないから、自ずと社長の”小間使い”的な存在になっていった。

麻雀大会を間近に控えたある日、ハチが電話をとった。

ハチ「はい、○○○です!」

電話の相手「●●●と申しますが、□□□ゴンゾーさんをお願いします」

ハチ「はい? □□□ゴンゾー???」

電話の相手「イソノ□□□□さんをお願いします」

ハチ「はい? イソノ□□□□???」

電話の相手「イソノ・ゴンゾーさんをお願いします!」

 ハチの頭の中で何かが弾けた!

 ハチ「少々お待ちください」

ウ、ウ、ウッ! 笑いを堪えて電話を取り次いだ。イソノ・ゴンゾーさんではなく、“ヒショのコンドーさん”に。

いつの間にか彼女は、社長の小間使いの範疇を軽々と飛び超えて、社長案件以外の打ち合わせにも、頼まれもしないのにお茶を出し、「秘書の近藤です」と名乗って、あいさつをするようになっていたのだ。

あの積極性は見習うべきものがあると、今は思える。