月刊いぬごや新聞8月号

知ってほしいの、東京の農業 4

菊美さんが、世田谷で農業を続ける意味 その2

イチゴのハウス1棟から農業をスタートした野島菊美さん。今ではイチゴのハウスは2棟になり約2500株、ブルーベリーは約12本を栽培。切り花と鉢花にも力を入れている。菊美さんが果物と花にこだわる訳は……。

種から育てる農家もいるが、苗にするまでの管理が苦手なので、多少高くても苗を買って育てて出荷しているという

 「そんなに高いものじゃなくていいから、普段の食卓に果物を乗せてほしいなって。皮をむいたり切ったりするのが面倒だったらカットフルーツでいいんですよ。ちょっと割高だけど、美味しいとこだけ入っているし、食べきれる量だし、ゴミも出ないから、むしろ安いかもしれません。

花もそう。一輪でいいから、玄関でもトイレでもいいから、花瓶じゃなくてコップでいいから、いつも花があるような家にしてほしい。

お腹いっぱいにはならないし、不要不急の時に役に立つものではないけど、嗜好品っていうのかな、そういうものが普通にある暮らしっていいですよね。でも、小さい時から生活の中にないと、多分その人の人生に果物も花も入ってこないと思う。実際、ファーマーズマーケットでも、お花を買う人って高齢な人が多いんですよね。今のお母さんは忙しいし、そんな余裕ないと言うかもしれないけど、長い子育ての中のちょっとの間じゃない? 三つ子の魂じゃないけど、子供にはそういう生活してもらいたいってずっと思っています」

菊美さんの朝一番の仕事は、12月から翌年5月頃はイチゴ、7月から8月はブルーベリーの摘み取りとパック詰め。用意できた分をオープン前の10時までにJA東京中央の直売所「ファーマーズマーケット千歳烏山」に届ける。もう1回行く場合は、もう一度摘んで、詰めて、11時に出荷。だいたいこれで午前中は終わりで、午後は切り花用の花の手入れや花苗の世話だが、暑い時期は昼寝に家に帰ったり、ホームセンターに涼みに行ったり(笑)して、夕方戻って作業することもあるという。

専業主婦から農家になって、菊美さんの生活は植物を中心に回るようになった。

「丸一日休む日は年に数回かしかないけど、朝出荷して午後休むとか、ゴルフに行ったら夕方帰ってきてから水をやりをするとか、歌舞伎にもコンサートも行っちゃいます。夜の部なら昼は働けるでしょう。植物に合わせて適当に休んでるって感じ。

できないのは2泊3日以上の旅行だけ。1泊だったら昼から出かけて、次の日の朝帰ってくれば、昼から作業できますからね。周りは呆れてるけど、そういう時間も大事。だって私が元気じゃないと、イチゴもブルーベリーも花も元気になれないじゃない」

今は叔父が午前中の2時間、草むしりなどをしてくれるというが、それ以外のことは一人でやっている。収穫と出荷と次の準備がかぶった時などは、ちょっとしたパニックなのだとか。

農家になって約20年。「世田谷に畑の風景を残し、次世代につなぎたい」と熱く語る

菊美さんは、育てたイチゴやブルーベリーを“うちの子”と呼ぶ。この“うちの子”たちは、これからも生まれ続けるのだろうか。

「息子はサラリーマンで、結婚して別のところに住んでいて、娘は家にいて働いているんですね。どっちがやるか分かりませんけど、娘の連れ合いになってくれる人が手伝ってくれるといいなと思っています。ちょっと距離感があるのがいいんですよね」

世田谷区の農地面積は、東京23区の中では練馬区に次ぐ広さを誇る。しかし、ここ数十年で急速に宅地化が進み、農家の数もめっきり減った。

「相続、相続で、農業だけの収入では税金が払えなから、マンションにして貸すしかない。農業の傍ら賃貸業やっているのか、不動産賃貸業の傍ら農業をやっているのか、分からなくなっているのが現状です。私はここが実家だからやってますけど、実家じゃなかったら多分やってない。先代が私よりずっとずっと苦労して残してくれた土地です。それを思うと、やっぱり、残したいですよね」

今月の言葉

サンドウィッチの場合も「お弁当を広げる」だよ!

おーどりー――とある雑誌の校正をしていたときのことなんですが。

ハチ――はい、はい。また、なんかすごい勘違いしてる表現に遭遇したの?

おーどりー――そうなんです。「サンドウィッチを広げる」という表現にぶち当たったのですよ。最初は何のことかわからなかった。サンドウィッチをパンと具に分解するのかな?とも思ったの。

ハチ――あー、これ、ひょっとして。

おーどりー――たぶん、お察しの通りだと思うけど、「お弁当を広げる」の意味で使ってた。アメリカのとある公園の紹介記事だったんだけど、その記事を書いたライター的には、「アメリカ人は、お弁当なんか食べないじゃん。食べるとしたらサンドウィッチだから、広げるのはサンドウィッチだ!(これを思いついた私すごくね?)」となったようで。。

ハチ――なるほどね~。お弁当ってのは、そのライターにとってはお弁当箱に、卵焼きとか唐揚げが入った、いわゆる日本のお弁当であって、サンドウィッチはお弁当じゃなかったという訳だ。まあ、最近は英語でも「Bento」と言うらしいけどね。

おーどりー――「お弁当を広げる」という表現を額面通りに受け取っちゃった例よね。でも「サンドウィッチを広げる」という表現に行き着くとは。。。参りました(笑)

ハチ――逆に、すごいというか何というか。最近、変てこな表現が雨後の筍のごとく、どんどん生み出されてくるのがわかったような気がする。

おーどりー――スポーツでも何でもそうだけど、基本とか基礎って大事だと思うわけよ。基本がしっかりしていれば、ちょっとした言葉のお遊び的なことは「おしゃれ」とか「粋」に感じるんだけど。基本がなってないと、それは単なるグジャグジャなやつ。

ハチ――お。なんか偉そうじゃない?

おーどりー――20代のころ、一瞬お茶を習っていたことがあって、家元をお迎えしたお茶会に出席したの。その席で、家元はすっごい大胆なお茶の点て方をするわけね、デモンストレーションとして。柄杓をすごく高く持ちあげて、そこからお湯を注いだり。そうしたら、あたしたちの先生が慌てて、「み、皆さんはお家元の真似をしないようにっ。皆さんは、お家元みたいなお茶の点て方をしてはいけません!」と言った。でも思い返すと、さすがは家元なんですよ。すべてが美しかった。あたしたちがそんな作法でお茶を点てたら、ただ単にふざけてるようにしか見えないからねぇ~。なんか、例えが的確ではないかもだけど、雰囲気で理解してください。

ハチ――了解! あたしたちも気を引き締めてやりましょう。

おーどりー――ほんとうに。その当時、家元だった千玄室さんも、つい先日お亡くなりになって、残念です。

ハチ――ああ、特攻生の生き残りとしても知られてた方だよね。ご冥福をお祈りします。

おーどりー――ちなみに、最近はお弁当を広げる機会がめっきり少なくなり、つまらないなーと思っています。

広げる:包みや巻いてあるものをほどく。あける(大辞林第4版)

行ってきました!

スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで

素描、スウェーデン……何だか地味な感じの展覧会です。しかし、会場は天下の国立西洋美術館! しかも、チラシの犬が可愛い!! で、行ってきました「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」。

「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」展示風景、国立西洋美術館、2025年

地味と言いましたが、スウェーデン国立美術館は、スウェーデン王家が収集した美術品をコレクションの基盤とするヨーロッパで最も古い美術館の一つ。そのコレクションの中でも特に充実しているのが素描コレクションで、そんな質、量ともに世界最高峰の素描コレクションが、約 80 点も来日するのはこれが初めてなんだとか。

展覧会は、第1章:イタリア、第2章:フランス、第3章:ドイツ、第4章:ネーデルラントと、制作地域ごとに構成されています。マニエリスムを代表する画家パルミジャニーノやドイツ最大の画家といわれるデューラー、光の画家と称されるレンブラント、『フランダースの犬』でお馴染みのルーベンス、他にもブリューゲル、ヴァン・ダイクなど、西洋美術史に名を残す巨匠の素描も数多く展示。決して地味ではありません!と言いたいところですが、如何せん素描は木炭やチョーク、ペンなどで描いたものなので、華やかさに欠けるのは否めません。それに、作品はどれも小さいっ!

でも、思わず目が釘付けになる作品も! まず、ハチの目がとまったのは、第2章:フランスの《白鳥の騎士》。くるりと首を曲げた白鳥の背に甲冑姿の騎士がまたがっているのですが、白鳥の脚がっ……。宮廷で行われたページェントのコスチューム用デザインとのことなので、赤い脚は作り物。だったら、せめて腰の辺りに白鳥の胴体をもってきて、がっしりとした脚は全部出して、そこにほっそりとした白鳥の脚を描けばいいのに〜〜〜

フランチェスコ・プリマティッチョ周辺 《白鳥の騎士》 スウェーデン国立美術館蔵

それから、第4章:ネーデルラントの《キリスト捕縛》。ゲッセマネの園でキリストが逮捕された場面を描いているのですが、どれがキリストか一目瞭然。後光が差しているというか、眩いばかりに光り輝いています。さすが光の画家レンブラント。その技量は素描でもしっかり発揮されていました。

レンブラント・ファン・レイン《キリスト捕縛》 スウェーデン国立美術館

そして、楽しみにしていた《眠る犬》。チラシで見るより、ずっとカワイイ! 安心し切っているのでしょう、寝息が聴こえてきそうなくらい、ぐっすり眠っています。指で触れたら、柔らかな毛並みの感触や体温までも伝わってきそうです。

コルネリス・フィッセル 《眠る犬》 スウェーデン国立美術館蔵

さらっと描かれているのに緻密だったり、徹底した観察に基づいて描かれているのにさりげなかったり……素描=“素”朴と思っていたけど、作者の手の跡が直接的に感じられて、創造の場に立ち会っているような臨場感が味わえました。

ちなみに、素描は環境の変化や光、振動の影響を受けやすいため、海外で所蔵されている素描作品がまとまって日本で公開されるのは稀なのだそう。案外、貴重な機会かも。

「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」は9月28日(日)まで。

展覧会公式サイト:https://drawings2025.jp