月刊いぬごや新聞12月号

知ってほしいの、東京の農業 6

朝採れの野菜を庭先直売所でゲット! それこそが東京の農業の魅力

実は数年前から五十嵐農園の主力となっているのは、粒の大きさと甘みで人気の高い「おおまさり」の改良品種である「おおまさりネオ」という品種だ。おおまさりは、株と株の間を1メートルほど空けて植えなければならなかったが、おおまさりネオは30センチ間隔の密植が可能で、収穫量は変わらず、むしろ安定しやすい点も魅力だという。もちろん味も良くなっている。

掘り出したばかりのおおまさりネオ

五十嵐さんが、おおまさりネオと出会ったのはインターネット。栽培情報を調べたことがきっかけだ。最近は野菜の情報収集や種の購入も、インターネットが主流になっているのだとか。

五十嵐農園の畑は現在、約55アール。そのうち約40アールを五十嵐さん自身が担当している。父親の畑とはあえてエリアを分け、“お互いに干渉しすぎない”距離感が、家族で農業を営むコツだと笑う。

五十嵐さんが担当している約40アールの畑。ここで少量多品種の野菜を栽培している

五十嵐さんが栽培しているのは。春はそら豆や葉物野菜、夏は白いとうもろこしや枝豆、冬はブロッコリーやカリフラワー、ロマネスコなど。とうもろこし一つとっても一般的な黄色だけでなく、あえて白い品種を選ぶなど、競合を避けながら付加価値を生む工夫を重ねている。また、そら豆は難易度が高く収量も安定しないが、季節の流れの中で欠かせない作物だと話す。

「落花生は、夏野菜と冬野菜の端境期に栽培できるので、タイミング的にはとてもいいんですよ」と五十嵐さん。そうやって畑のリズムを作りながら、年間を通じて収穫が途切れないようにしているいるのだ。

ちなみに父親は、夏はトマト、なす、きゅうり、ズッキーニといったいわゆる夏野菜、冬は大根、ニンジン、白菜など鍋に入れるよう一般的な野菜を栽培しているという。

「相続など代替わりのたびに畑は減ってきました。面積が減ったからこそ、単一の作物に頼るのではなく、年間を通じて新鮮な野菜を提供することが大事なんですよ」

東京の農業の最大の強みであり魅力は、消費者との距離が非常に近いことだ。畑の前の庭先直売所では、朝並べた野菜が昼前には売り切れてしまうことも珍しくない。

農業のやりがいについて尋ねると、「お客さんと直接やり取りできること」と即答。「おいしかったよ」「また来るね」そんな一言が、何よりの励みになるという。畑作業による砂埃などで迷惑をかけることもあるため、日頃から近所の方と積極的にコミュニケーションを取り、理解を得るように努めながら、五十嵐さんは地域に根ざした農業を続けている。

次回は、五十嵐さんのもう一つの顔、ブラジリアン柔術家としての顔をご紹介します。

行ってきました!

織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ

 渋谷ヒカリエ9階のヒカリエホールに、20世紀の家具デザイン史を代表するデザイナー、ウェグナーの椅子が160脚以上も集結しています! 今開催中の「織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」です。

おおまさりネオは30センチ間隔で植えることができるので。収穫量は倍増

ウェグナー? 誰? という人もいるかもしれません。でも、彼の代表作である《ザ・チェア》は知ってる!という人も多いのではないでしょうか。そうです、1960 年、腰痛に悩まされていたジョン・F・ケネディが大統領選挙のテレビ討論会の時に座っていたのがこの《ザ・チェア》。その完璧な美しさから“椅子の中の椅子”と称賛され、いつしか「究極の椅子」を意味する《ザ・チェア》と呼ばれるようになった椅子です。

なぜこんなにウェグナーの椅子が? はい、これらは全て椅子研究家の織田憲嗣さんが、50年以上にわたり蒐集してきた20世紀の家具や日用品群で、その中核をなすのがウェグナーのコレクション。現在は、そのすべてが北海道の東川町に寄贈されていて、町が管理・保存しているのですが、質、量ともに世界トップクラスとされるそのコレクションが、東京でまとまって公開されているのです。

しかも、会場の構成は、あの田根剛(ATTA)さん! 世界を股にかけて活躍する建築家ですが、美術展などの斬新な空間演出でも注目を集めています。期待せずにはいられません。

ウェグナー作品のポスターを見ながら一番奥まで進むと、そこには《ザ・チェア》が。なんて素敵なアプローチ! 会場は、チャプター1「ハンス・ウェグナーとは何者か?」、チャプター2「クラフトマンシップ」、チャプター3 「名作椅子」、チャプター4「ウェグナーの椅子 1945-1990年」の4部構成、途中にはウェグナー本人のインタビュー映像も流れます。

椅子の中の椅子と称される《ザ・チェア》。ジョン・F・ケネディがこの椅子に座っている姿は、メーカーであるPPモブラー社のポスターにもなりました

印象的だったのはチャプター2。組み立てられる前のパーツが椅子ごとに展示されていて、その椅子がどのように作られているのか一目瞭然! 田根さんによれば、「バラバラになっているパーツを見ると恐竜の骨格標本を見ている時のような興奮を覚える」とか。同感です。「木目までデザインされている」とも言われるウェグナーの椅子。完成形が美しいだけでなく、パーツ1つ1つまでも美しかったです。

前脚と後脚、背もたれや座面などの各パーツは、それぞれの役割を果たすべく設計されています。「木目までデザインされている」ともいわれように、どのパーツの木目も完璧!

さて、本展のハイライトともいうべきが、チャプター3。真っ暗な空間に、名作椅子25脚が、一脚ずつ独立した台座に据えられ、スポットライトを浴びて浮かび上がっていました。ウェグナーは、「椅子に背面というものは存在しない。どの角度から見ても、美しくなければならない」という言葉を残していますが、下から見た形までその影からわかるようにライトアップされていて、まさに360度どの角度からも見ることができる! さすがです。

そして、圧巻は椅子の大海原に飛び込んだようなチャプター4。ウェグナーがおよそ60年の間に制作し続けた椅子が、彼が手がけた椅子以外の家具と合わせて展示されていました。これだけの量と質を一度に見られる機会は当分ないのではないでしょうか。

チャプター4では、椅子や家具が年代やメーカーごとにカーペットを色分けして展示され、ウェグナーの半世紀にも及ぶ創作活動を紹介しています

そうそう、最後にウェグナーの椅子に実際に座って体感できるコーナも! 2026年1月18日までやってます。公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/25_wegner/

今月の言葉

Z世代は腹が立つ以外の意味を知っているのか? 「ムカつく」

おーどりー――あー、ムカついたっ!すっごくムカついた!!

ハチ――どうした、どうした?

おーどりー――電車で座ってたんだけど、途中の駅でおばあさん二人が乗ってきて私の前に立ったの。だから思わず立ち上がって席を譲ったんだけどね。おばあさん二人に対して、席はひとつしかない訳だ。

ハチ――ふむふむ、そりゃそうだよね。

おーどりー――そうしたら、立ち上がったとたん、あたしに聞こえるくらい大きな「チッ!」という舌打ちを残し、隣に座ってたお姉さんが別の車両へと移っていったのですよ。今まで聞いたなかで一番大きな「チッ!」だった。ほんと、いい若いもんが。ムカつくわー。

ハチ――ムカつくって、今は「腹が立つ」の意味で使うことが多いけど、私たちが子どものころは「胸がむかむかする」とか「吐き気がする」みたいな意味で使ってたよね。今の若者はたぶん吐き気がするときには、「ムカつく」は使わないよね。何て言うのかな?

おーどりー――普通に「気持ち悪い」とか?「気持ち悪い」の短縮形の「キモい」は、また意味が違ってくるからややこしいけど。そういえば、昭和のドラマの再放送を見てたとき、登場人物が「気分が悪い」の意味で「今日は朝から胸がムカついてムカついて…」みたいなこと言ってて、「は?誰にムカついてんの」と思ってしまったんだよね。昭和を生きていたあたしたちも、令和の今じゃそんな使い方を忘れてしまっているっつーことですね。

ハチ――そう、私たちのなかでも「ムカつく」は、すでに「吐き気がする」の意味じゃなくなってしまった。若者ことばおそるべし。。

おーどりー――それが驚いたことに、若者ことばというわけじゃないんだって。

ハチ――え、そうなの?

おーどりー――江戸時代の上方(関西)では、「腹が立つ」の意味で使われていたらしいの。昭和14年発行の辞書にも、「癪にさわって腹が立つ」の意味があるらしい。だから、決して若者ことばじゃないのだけれど、だれもが「ムカつく」を「腹が立つ」意味として使うようになったのは、平成になってからかな? JKあたりが「ムカつく~」というのを「腹が立つ」の意味で使っているのを初めて聞いたとき、ほんとうに「はぁ?」と思ったけどね。

ハチ――上方限定とはいえ、江戸時代からそういう意味で使われていたとは知らなかった。ひとつお利口になりました。

ムカつく

意味:①胃の中の物を吐きそうな感じがする。

   ②今にも声(言葉)に出して怒りたくなる

(新明解国語辞典第7版)